ジグムント・フロイト Freud,Sigmund(1856-1939)
フロイト
フロイトは、オーストリアの神経学者で、精神分析の創始者です。長くウィーンで活動するが、晩年はロンドンで過ごしました。フロイトが活躍した時代は、今から100年程前の事ですが、現代においても、心理学、臨床心理学、精神医学、またその他の分野において多大な影響を持っている人物です。
無意識の提唱
無意識の概念を提唱した人物でもあります。我々が普段意識していることはほんの氷山の一角のようなもので、背景には広大な無意識の領域が広がっていると主張しました。しかし、見えない部分とはいえども、広大な無意識の層は稼働していて、意識に影響しているというわけです。
フロイトは、意識を、意識、前意識(意識しようとすれば意識できる層)、無意識の3層に分けて考えていました。因みにユングは、フロイトとは異なる意識を提唱しています。それを集合的無意識と呼びました。
無意識という言葉を我々は日常生活でも用いています。
はたしてフロイトが言うように、このような意識の構造が妥当なものであるかどうかはわかりませんが、我々の日常的な経験に当てはめて考えてみると、見た目だけではわからないことが、見た目の内側で動いているということは経験したことがあるように思います。つまり、観察できない部分でも忙しく動いているものがあるわけです。
例えば、車はスイスイ走っているように見えます。運転している人も、アクセルを踏むだけで車が何十キロもスピードを出せるので、あまり深く考えず運転している場合がほとんどでしょう。
しかし、車の内部では、ガソリンが消費され、凄まじい勢いでエンジンが稼働しているわけです。その様子は車のボディーに囲われているため、通常は見えません。せいぜい、排気ガスが出ているのを観察できるくらいなのです。
アクセルを踏むくらいの力とは比べ物にならない力が背景では動いているのです。
身近なところでもうひとつ例を挙げれば、水泳なども例えになるでしょう。スイスイと泳いでいる人を見ると、全く力など使ってないように感じますが、まさに水面下で足や手の動きを工夫し、抵抗を少なくしながら進もうという努力をしているわけです。
プールの外から見ていると、一見すると水中で何が起きているかわかりません。ただ泳げる人がスイスイ進んでいるようにだけ見えるわけです。もちろん、水泳を経験したことのある人が見れば、水面下でどのような努力がなされているか想像をすることが可能でしょう。
防衛機制
看護を学ぶ人や教師を目指している人も、その勉強の過程で目にしたことがあるのではないでしょうか。心理学を学び始めると、はじめのうちに登場する言葉です。心理的安定を図るためにいろいろな無意識の働きがあることを示しています。
酸っぱいぶどうの話はよく説明に用いられます。もし、ぶどうがの実に手が届かなくてがっかりしそうなときに、「あんな酸っぱいぶどうは食べない方がいい」と開き直って心理的安定を保とうとする、などが防衛機制の例になります。この場合は、合理化と言います。
その他、抑圧、知性化、昇華などがあります。
抑圧とは、先に挙げた、無意識の層へ、自分の欲求を押し込めようとする防衛機制です。フロイトはこの抑圧を精神分析の中核的な概念と考えていたようです。
そして、知性化とは、例えば、悲しい時の気持ちを、ジェームズ・ランゲ説で説明すような行動を指すと言って良いでしょう。
「自分は、悲しくて泣いているのではない。涙が流れるから悲しくなってしまったのさ」
難しそうな学説を持ち出して自分のことを説明しようとする上記のような場合は知性化によると理解してよいのではないでしょうか。
昇華の場合は、自分のエネルギーを芸術や運動などに熱中することで、発散させようとする動きになります。
弟子
フロイトは、多くの弟子を輩出したことでも知られています。代表的な人物には、カール・ユングをはじめ、最近日本でも注目を集めているアルフレッド・アドラーがいます。特に、ユングやアドラーは、途中からは袂を分かっています。多くの弟子がいたわけですから、途中で学説の相違が現れても不思議な事ではありません。
後書き
カウンセリングを学びはじめ、臨床心理学の本を開くとフロイトはやはり大きく取り上げられています。そしてユングもいれば、ロジャーズも出てきます。
ですが、フロイトをその後も深く長く学び続けるかというと、それはカウンセラーによって異なります。多くのカウンセラーはフロイトを深くは学んでいないはずです。
恥ずかしい話ですが、フロイトの原著を読んだ人はごく僅かだと思います。
カウンセリングを実践する中でフロイトが重要な人物であることに誰も異論はありません。